2-49『魚を盗んだキツネ神』
―北海道日高地方―
これは北海道日高(ひだか)地方のアイヌに伝わるお話
昔、かあさんギツネが石狩の村の裏山に暮らしていた。
かあさんギツネは子沢山(こだくさん)で、食べ物さがしに大いそがしだったと。
ある日のこと、いつものように川岸を歩いていると、向こうから石狩の長者さまがやって来た。
長者さまは魚をつかまえると柳の木の枝に魚をしばり、それを川の中へ沈めては、また、他の魚をねらって川岸を歩いていったと。
かあさんギツネは、長者さまに見つからないように、こっそりと、柳の木の枝をひとつ引き上げた。
「長者がこんなにたくさんとったのなら、お腹を空(す)かせた子供たちの為に、ちょっと一匹いただいて行きましょう」
かあさんギツネが魚をくわえて行ったあとに、長者さまが戻って来た。
「さてさて、今日はたくさんとれたわ
い。ひい、ふう、みい、よお・・・ありゃりゃ、一匹足りない。誰かわしの魚を盗んだぞ。こりゃバチをあててもらわずにはおかないぞ。
村にいる神様たち、山にいる神様たち、このふとどき者に、どうかバチをあてて下さい」
長者さまがあんまり文句を言うもので、神様たちも大弱り、あちこちから集まって来て、かあさんキツネに文句を言ったと。
「困ったことをしてくれたもんだ。キツネのおっかさん。キツネも神様の仲間なのに、なんだって人間のとった魚を盗んだりしたんだ。おかげで石狩の長者から、夜も昼も苦情かきて、村の神様たちも山の神様たちも、おちおち暮らしていられない。
お前のようなやつは、さっさとここを出て行ってくれ」
かあさんギツネは裏山から追出されてしまったと。かあさんギツネは、
「かわいい子供たちに食べさせるために、たった一匹とっただけなのに、長者があんなに文句を言うなんて、そのおかげで、私は神様仲間でいられなくなってしまった。
これもみんな石狩長者のせい。ああ、くやしい。雨よ降れ、雨よ降れ。どんどん降って石狩の村をめちゃくちゃにしてしまえ」
そういいながら跳ね回ると、たちまち雲が出て、大雨が降り出した。
あっというまに川はあふれんばかり。
かあさんギツネはそれでも止(や)めずに、石狩の長者さまの家の前に行って、パウパウ鳴きながら走り廻ったと。
雨はますます激しくなって、長者さまの家もなにも、みんな流されそうになったと。
家から出て来た長者さまが、かあさんギツネを見つけて、やっと、事の次第に気がついた。
「しもうた。とんだことをしたもんだ。魚を盗ったのはキツネの神様だったか。子供たちに食べさせるために盗ったのなら何もあんなに文句をいうことはなかったのに。
キツネ神様、私が悪うございました。あやまりますから、どうか、この雨を止ませて下さい。石狩の村が全部流されてしまいます」
石狩の長者さまがあやまったので、かあさんギツネはパウパウ鳴きながら自分の家に引き返し、家の中から様子を見ていたと。そしたら
長者さまは、くり返し、かあさんギツネにおわびをし、村の神様たちにも、山の神様たちにもあやまったと。
それで、かあさんギツネも機嫌をなおし、パウパウ鳴くのを止めたので、雨も小降りになってきて、村も流されずにすんだと。
キツネでも人間でもお腹の空くのは同じなのだから、魚の一匹ぐらいケチケチするもんじゃあありませんとさ。
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